fc2ブログ

渡し守の理楠

 霧に包まれた荒野の中、巨大な湖の真ん中にある島には「ある国」が存在していた。そのある国は何をしている国なのか何の国なのかわからないが、石段の古い城壁で国は囲まれているそうだ。その国に入るには湖の岸に一つある舟で渡し守に送ってもらう必要があった。
          リ クス
 渡し守の名は「理楠」という20代ほどの青年。彼はいつも国へと入ろうとする「お客様」を小さな舟を長い櫂でゆっくりと、お客様の話の聴き手となり渡り流れる―――


 ~一話「金持ちと貧乏人の」~

 霧の濃い湖の上、木造の小さな舟が一隻渡し守が漕ぐ方へとゆっくり流れる。それはまるで川に流れる葉っぱのような緩やかな流れ。音は櫂で水をゆっくりと掻く流水の音のみのほぼ無音状態。その中で、舟に乗っているのは大きい笠を被った渡し守と一人の男、耳を澄ますとその男は、何か語っていた。

「いやぁー私は商いをしていましてね。ちょっとコツを掴んだらこの通り、あっという間に上へ上へと進み、人生の頂点までたどり着きましたよ。昔は平凡な雑貨屋の店長でしたが、今では大企業の社長にまでなりました。いつ死んでも悔いがないくらいですよ、ハッハッハ!」

 男は景気良く高笑いをして語った。煙草を口に加え銀のライターで火をつけ、フーッと煙を吐く。その煙は霧にまぎれてすぐにわからなくなる。

「社長さんでしたか。その成りから見るに、大層な会社の社長さんなのでしょうねぇ」

 櫂を漕ぎながら渡し守の理楠は相手の気を損ねないよう、明るく応えた。確かに毛皮のコートを羽織り、宝石の指輪を幾つかしているところを見ると成金かと思うくらいの男だった。

「ええ、ちなみに今日は休みを取ってちょっとした一人旅でしてね。この国には新しく店舗を設けるために視察するついでに観光しに来たんですよ」

「なるほど。ところで、そこまで上り詰めることができたコツというのは、どの様なことですかね?」

 理楠は笠のずれを直しながら、男の方に顔を向ける。すると男はうーんと唸りながら考え始めた。しばらくその間が続き、男はやっと口を開いた。

「そうですね、渡し守さんにだけ特別にお教えしましょう」


―――――――――――――


 霧の薄い湖の上、木造の小さな舟が一隻渡し守が漕ぐ方へとゆっくり流れる。それはまるで川に流れる葉っぱのような緩やかな流れ。音は櫂で水をゆっくりと掻く流水の音のみのほぼ無音状態。その中で、舟に乗っているのは大きい笠を被った渡し守と一人の男、耳を澄ますとその男は、何か呟いていた

「私は全てを失った。家族も富みも職も全て……けれど、家族の後を追って死ぬことは私はしない。私が行き続けることは、きっと家族が望んでいるのだから」

「そうですか――素晴らしい希望をお持ちなっていますね。あなたさんはその精神の強さ、お見事です」

 理楠は櫂を漕ぎながら相手を尊重するような口調で明るく応えた。

「ええ、私は全てを失った代わりに諦めるという行動もしなくなった。いえ、失ったと思います。だから私は、この国で新たな人生を歩もうと思っています」

 男は拳を作り、情が篭った強い口調で語った。

「ところで、何故全てを失ってしまったのですか?」

 男は少し間をあけた後、口を開いた。

「ええ、いいですよ。渡し守さんにお話しましょう」


―――――――――――――


「あっしらの国は厳しいですぜ。めげずにがんばってくださいね――さて、着きましたよ」

 理楠がそう言って正面を指で示す。目の前には城壁で囲まれた国が見えており、目の前には渡し舟用の小さな港が存在していた。

「忠告ありがとう。ではまた」

「いえ、もう会うことはないでしょう。ご利用ありがとうございました」

 男はキョトンとしたが向き直って、国の中へと消えていった。それと同時に違う男がやってきた。
 それは前の客であった金持ちの男であった。

「早く舟を出してくれ!」

 男は舟に飛び乗って急かしてきた。それに応えて理楠は舟を手早く湖へと出す。
 国が見えないところまで舟が来ても男は息を荒くしたままへばっていた。

「お客さん、お国で何を致しました?まさかあのコツでも致そうとしましたか」

「ああ、けれど失敗してしまってね。もうこの国には来ないことにするよ」

「そりゃあこの国は皆警戒心が高いですから。盗み事やまねごとばかりして設けることができる国じゃありませんよ」

 理楠は櫂を舟に置き、座って話し出した。

「他の国の商売方法を盗んだり、企業の開発中の商品の設計図を奪って先に作るなんてこと。永くは持ちませんよ。今までは運がよろしかったんじゃないですか?」

 男は苦笑いしてボロボロになった服からハンカチを出して汗を拭く。

「いや、たまにはこんなこともあったさ、けれどここは怖いですね。法に違反しただけで死罰とは危うく命を無駄にするところでした。はっはっは」

「いえ、もう無駄にしていますよ」

 ―ドンッ!―

「へ?」

 男は湖に落とされた。突然の出来事に慌ててバシャバシャともがき始める男。


「お、オイ貴様!何をする!」

 どうやら理楠が男を蹴りだして湖に落としたらしい。

「生憎ですがお客様、私もこうして渡し守していますが、ここの国民ということになっているんですよ」

「な」

「ちなみに湖には人の肉を好む生物もいらっしゃるのでお気を付けて。それでは」

 そう言って理楠は櫂で舟を進め、霧の中へと消えていった。

「お、おのれ人殺しめ!!ふざけ――」

 男の言葉はそこで途切れ、湖に大きな波紋を作ってそれきり聞こえなくなった。しばらくその辺りが赤色に染まったが、その様は誰も見た者はいなかった。

「すいませんが国の掟でして、悪く思わないでくださいね。ま、今までの報いと思ってください」

 理楠はふぅ、とため息をついて舟の上で一休みしていた。

「あの人、今頃お国でがんばってるでしょうね。全てを奪った者が今こうしていなくなったのだから」

 理楠は一人そうぼやいてから、岸へと向かって櫂で舟を漕ぎ始めた――――

絵は適当


スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

地水

DMMソシャゲ中心。
神姫プロジェクトなど
そのほかにも多数。